WATOWA GALLERYは、フランス出身の現代アーティスト ZEVS(ゼウス/本名アギーレ・シュヴァルツ) による、日本初の大規模回顧展 「NEW WORKS」 を、2025年12月5日より開催いたします。 
ZEVSは、広告・ブランド・都市に潜む「視覚的権力」を独自に解体するアプローチで知られ、世界的ブランドロゴを“溶解する”代表作 Liquidated Logos(リキデイテッド・ロゴ)シリーズ をはじめ、30年以上にわたりポスト・グラフィティの最前線を牽引してきました。 本展は、日本では初となる包括的な回顧展として、彼の初期ストリートアクションから最新作までを網羅的に紹介し、「ストリートから美術館へ」というZEVSの軌跡を体感いただく特別な機会です。 
また、オープニングイベント(一般入場可)では、ZEVSによるライブパフォーマンスを予定しています。 


展覧会概要 
タイトル|ZEVS:New Works
Opening party|2025年12月5日(金)18:00 – 21:00 
*19:00よりライブパフォーマンス予定 *一般入場可能 
会期|2025年12月6日(土)- 2026年2月1日(日) 
営業時間|木曜日 – 日曜日 13:00 – 18:00 
会場|WATOWA GALLERY 東京都台東区今戸1-2-10 JK BLD 3F 
キュレーション|Shai Ohayon(シャイ・オハヨン) 
主催|WATOWA GALLERY 

本展は、フランス人アーティスト、アギーレ・シュヴァルツ(Aguirre Schwarz)、通称 ZEVS が十数年ぶりに日本へ帰還することを記念して開催される重要な個展です。本展のために特別に制作された新作のみを東京で

独占的に紹介し、同地との創造的関係の再構築を祝うものとなっています。 

出品作品は、ZEVS の作家活動の展開を示すと同時に、日本の文化的文脈との親和性を考慮して選定されています。代表的な「リキデーション(液化)」技法に加え、日本のミニマリズムや国旗の象徴性への端正な言及が織り込まれ、光彩、温度感、生命力といったイメージが立ち上がります。 

展覧会の中心を成すのは、〈Cycle 1967〉と題された、2025年制作の新作キャンバス8点です。本シリーズにおいてZEVSは、デイヴィッド・ホックニーが1967 年に発表した代表作《A Bigger Splash》を参照し、華やかなモダニティと訪れつつあった社会的不安が交錯した1967年という歴史的節目に改めて光を当てています。各作品はホックニーのカリフォルニア的想像力に基づくモダニスト建築とプールの構図を踏襲しながら、特定の時刻を軸として構成され、同時に黒い流出物がその静謐な風景を攪乱します。この不定形の黒は、同年に発生したトリー・キャニオン号の大規模油流出事故を暗示し、その社会的含意を慎重に喚起しています。 

さらに、本シリーズでは、日本への敬意として赤い円が反復して登場します。それは日の丸の象徴性への明瞭な参照であると同時に、フランスの石油企業エルフ・アキテーヌ(Elf Aquitaine)が 1967 年に使用していたロゴを想起させます。かつて活力と進歩の象徴であったこのロゴは、今日では環境負荷の視点から再評価を迫られる存在でもあります。加えて、プールの水面には、パリのオランジュリー美術館に所蔵されるクロード・モネ《睡蓮》の断片が引用され、光と時間の観察に関する印象派の研究との美術史的対話が構築されています。作品はそれぞれ、Veille 3h、Morning 7h、Matin calme 9h、Midi 12h、Déclin 15h、Coucher 18h、Crépuscule 20h、Nuit 22h といった特定の時刻に対応し、1日の周期を成す連作として統合的に構成されています。 

ZEVS の“プール作品”は、ヨーロッパ、アメリカ、アジアの主要美術館および重要コレクションに収蔵されており、Galerie Rive Gauche(パリ、2015)、Lazarides(ロンドン、2016)、MAMO(マルセイユ、2021)、ハンガラム美術館(ソウル、2023)など、国際的に評価の高い会場で展示されてきました。本展でこれら新作を日本の観客に紹介できることは、非常に意義深い機会となります。 

これらに加えて、本展では《Liquidated Sun》(200 × 200cm)の大作も出品されます。ミニマルかつ抽象的な本作は、オリヴィエ・モッセとジャン=バティスト・ソヴァージュによる 2017年の〈Olt〉プロジェクトとの形式的共鳴を見せながら、再びエルフの旧ロゴおよび日本の国民的象徴との関係性を喚起します。ZEVS 特有の滴下と流動の語彙を通して、本作は歴史的忘却、文化的摩耗、象徴性の脆弱性といった主題を示唆し、一方で純粋な形式的探究として、日本の戦後美術における幾何学的純度—もの派、具体、戦後グラフィックデザインの系譜—への批評的応答とも読み解けます。 

展覧会の締め括りを飾るのは、ZEVS の新作シリーズ〈Minimal Paintings〉。本シリーズは、作家の実践における内的転換を示す重要な指標といえます。克制を基調とした本作群は、抽象化と還元を志向しながら、2000

年代前半の〈Visual Attacks〉の精神を微かに残しています。作品の起源は、ZEVSが都市空間での介入行為に向かう前、スタジオにてスプレー缶の調整を行うために用いていた白いモノクロームのテストキャンバスに遡ります。2024年、彼はこれら偶発的痕跡を再評価し、小型の正方形キャンバスによる自律的な連作へと昇華させました。予備的ジェスチャーの形式化を通じて、ZEVSは街頭介入の手法を絵画作品として再構造し、イメージ、影響、消去をめぐる探究に新たな層を加えています。 

本シリーズはまた、ZEVSの制作姿勢における深化と省察の現れでもあります。消費主義、ブランディング、企業権力に対する長年の批評的実践を経て、作家は近年、内省や本質主義、さらには現代の視覚的過多への応答へと向かいつつあるように見受けられます。絵画行為そのものへの新たな関心が示唆され、グラフィティのコンセプチュアリズムと自律的絵画の境界領域を探る試みとして理解することも可能です。 

シャイ・オハヨン 

Profile: ZEVS(アギーレ・シュヴァルツ) 

1977年フランス・サヴェルヌ生まれ。国際的に活動。ZEVS(アギーレ・シュヴァルツ)は、ポスト・グラフィティおよびインターベンション・アートの系譜に属するフランスの現代アーティストである。1990年代初頭より活動を続け、パリ、ベルリン、ニューヨーク、ソウル、香港といった都市での非公式な都市介入によって広く注目を集めた。ロゴ、広告、公共サインなど、現代社会を構成する視覚体系を対象とした彼の実践は、それらの権力性を撹乱・転用・再文脈化することで可視化しようとするものである。都市介入と美術史的思考の双方を基盤とし、企業ロゴを古典的なパトロネージの後継者として位置づける一方、アルブレヒト・デューラーのモノグラムからデイヴィッド・ホックニーの色彩感覚に至る多様な影響を取り入れている。初期には、The Shadow Flasher や The Serial Ad Killer などの名義でグラフィティ活動を行い、1992年に「ZEVS」と番号の付いた列車との衝突寸前の経験を経て現在の作家名を採用した。1997年には反射性塗料を用いた《Electric Shadows》を制作(のちに『Exit Through the Gift Shop』に収録)、1998年にはパリのギャラリーに匿名で電話をかけ「アーティストになるにはどうすればよいのか」と問いかけるサウンド作品を発表した。2000年代に入ると、広告看板に赤い塗料を吹きかける《Visual Attacks》や、2002年のベルリンにおけるラヴァッツァ広告の「誘拐」事件(後にパレ・ド・トーキョーで展示)によって名声を確立する。この出来事を契機として、企業ロゴを滴り落ちる不安定な形態へと変換する代表作《Liquidated Logos》が始動した。また、高圧洗浄機を用いた《Proper Graffiti》、フラッシュによる焼き付けポートレート、紫外線でのみ発光する顔料作品など、公共空間への批評的介入を多角的に展開した。 

その後、Electroshock(コペンハーゲン、2008年)、Old Masters(2012年)、Noir Éclair(シャトー・ド・ヴァンセンヌ、2016年)、パリ・ニュイ・ブランシュでの《Eiffel Phoenix》(2018年)、MAMOでの《Oïkos Logos》(2019年)、《The Last Cowboy is Dead》(2020年)など、制度的発表の場が着実に拡大する。近年では、2023年のルーヴル美術館およびソウルのハンガラム美術館でのプロジェクトをはじめ、《Minimal Paintings》《Liquidated Sun》など、都市介入とイメージ文化、現代的アイコノグラフィーの境界を探る最新シリーズを展開している。 

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