Diffusion of Nature 2023 土と夢 【Vol.2 Shibuya_渋谷】
5.5 fri ~ 5.14 sun, 2023
このインスタレーションは、私がアーティストインレジデンスに参加したときに、雲ノ平山荘やそこに関与する 人々の活動こそが、ひとつのアートワークであると感じたことに端を発しています。小屋主の伊藤二朗さんによる、 登山道整備や植生保護活動の話を聞き、彼自身が考案したヤシノミネットを利用した植生保護ネットを目にした時 に、地球そのものを材料や美術館に見立てるランドアートの取り組みとも通じるところがあると感じました。
また、雲ノ平の原生自然の各所には、二朗さんの父親であり、北アルプスの雲ノ平一体を開拓した伊藤正一さん が「アルプス庭園」や、「アラスカ庭園」など、世界各地の自然になぞらえた名前がつけられています。
人間が自然に対して「見立てる」文化は、芸術のはじまりと言えます。日本文化では、見立ての文化は独自の発
展を遂げており、伝統的に重要で、西洋の庭園とは根本が異なる日本庭園や盆栽などに通底する考え方と言われて
います。
そして、原生自然の植生を回復するために人間が手を加える行為は、エマ・マリスが指摘する「多自然ガーデニ
ング」など、人間が全く手を加えていない原生自然を信条としていたエコロジー観に疑問を投げかけている近年の
新たなエコロジー観に通じているとも考えられます。
本インスタレーションは、日本庭園を手がけるのならば雲ノ平をみてきたほうがいいと師匠に言われて雲ノ平に
訪れたという、二朗さんと親交がある庭師の金子さんの協力を得て、東京の気候で生息することができる園芸植物
で、雲ノ平の植生を模倣しています。ある意味で、雲ノ平の「庭園」の飛び地と言えるでしょう。
中には、チングルマやミヤマキンバイなど、実際の高山植物も含まれています。これらは種としては雲ノ平に生 息しているものと同じですが、園芸植物として育成され、流通してきたものであり、葉の様子や育ち方に微妙な差 異を見てとることができます。園芸植物の存在は、人間にコントロールされてきたと言えるのか、それとも植物の 方が人間を利用して生存してきたのか、あるいは共生進化してきたと言えるのか、さまざまな視点をもたらします。
周囲を囲っているのは、雲ノ平の植生を保護するために使用されているのと同様の、石を包んだ土に還る素材で
できたネットです。
自然の模倣を「自然素材」で行う本インスタレーションは、自然と人為の境界を再考する視点を投げかけます。
齋藤 帆奈
ARTIST
加々見太地/斎藤帆奈/Shibi/渋田薫/Soar/大東忍/只野彩佳/渡邊慎二郎