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Mariko Enomoto Solo Exhibition “Melancholia”(メランコリア)

12.2 Sat – 12.17 Sun 2023

DESCRIPTION

この度、アートプロデュース・コレクティブWATOWA GALLERY は、作家 榎本マリコの個展“melancholia” (メランコリア)を2021年「もりのなか」以来2年ぶりに開催いたします。会場にて、11月25日発売の榎本マリコ初めての作品集「空と花とメランコリー」の販売を行うほか、出版を記念して作品集の購入者には抽選で、ネオシルクプリント技法のジークレー作品を数量限定での販売を予定しています。

【会期】2023年12月2日(土) ~ 12月17日(日) 12:00~20:00

【レセプションパーティー】2023年12月2日(土) 18:00~21:00 / 入場無料、予約不要

【会場】elephant studio 1F/2F(東京都渋谷区渋谷2-7-4)

【定休日】月火

【営業時間】12:00 ~ 20:00

*12/3(日)、12/10(日)、12/17(日)は観覧無料

【入場(ドネーションチケット) 】: 500円(税込)〜
* 自身で金額を決定するドネーションシステム(ミニマム 500 円から入場 料を自身で決定し、それが若手アーティスト支援のためのドネーションとなるシステム。   アーティスト支援と国内アートシーンの活性化を目的としたアートアワード WATOWA ART AWARD 2023 EXHIBITION に寄付されます。

※作品の売買は希望者を承りながら厳正に行い、先着順ではございません。開場前から入り口に並ぶなどの近隣の迷惑となるような行為は禁止とさせていただきます。

Message from the artist

メランコリア

ギリシャ神話や過去の詩人たちの言葉から着想を得た作品群。

そこから拾い集めた憂鬱なかけらたちを、私だけが逃さなかった美しい瞬間だと思い キャンバスに落とし込んだ。

たくさんの欠けたものを埋めなくていいから、そのままでいたいと思う。 詩や音楽や物語、いつも見ている空が教えてくれる。 今の日常を生きる私のフィルターを通した私だけの美しい瞬間さえ逃さなければ、 世界は完成するのだと。

榎本マリコ

Statement

“絵画でしか表現できない、想像力を試されるような世界観に挑みたいと思う”

―榎本マリコ(2023年 9月 13日インタビューより)

顔を隠された女性、動物や植物と融合した身体、宙に浮くふたつの目といったポエティックなイメージの数々は、偶然性や無意識のなかで発現する超現実の表現を模索したシュルレアリスムの画家たちを想起させる。こうしたイメージの既視感を理由に榎本マリコを現代のシュルレアリストと評することは容易いが、果たしてそれは真実だろうか。

榎本の絵画にはしばしば、花で顔の一部を隠された女性が登場する。マグリットの《世界大戦》(1964年)や《人の子》(1964年)を連想させるが、彼女はそれらの作品はもとよりシュルレアリスムという文脈自体を意識したことがないという。榎本のキャリアはファッション業界から始まり、スタイリストのアシスタントとして働いたのち、22歳で絵画の世界に飛び込んだ。独学で絵を学び、イラストレーターを経てアーティストとしての道を歩むに至った彼女にとって美大中心のアカデミックな約束事や、イズムと文脈によって構築された美術史は縁遠いものであったに違いない。

作品の根底にあるのは、とりとめのない日常の中で出会う尊い瞬間への憧憬だ。私達の日常のほとんどは平凡な時間の繰り返しであり、同時に小さな苦しみの連続であるのだが、時折、詩や物語に心が震えることや、あどけないわが子の所作に聖なる存在を感じるような奇跡的な瞬間がある。榎本はそうした何気ない瞬間や、記憶の彼方に置き去りにされた感情を絵画として残したいのだという。日常に紛れ込んだ奇跡や神秘を榎本は巧みに拾い上げ、現実ではありえないイマジネーションの世界に描いてみせるのだ。

マグリットはパイプの絵に「これはパイプではない」という言葉を記すことで、ものに与えられたイメージを裏切って見せたが、榎本の絵画にもイメージに課せられた呪いを解く力がある。たとえば、顔という個人を象徴するパーツを隠す表現は、見方によっては個性を封じ込める暴力性や抑圧からの解放を促すメッセージのようにも解釈できるが、榎本は「隠す」という行為によってその裏側にあるものを自由に想像させる。シュールなモチーフの組み合わせも、現実や常識という不自由から私たちの感性を解き放ってくれる。

人の頭と白鳥の身体が融合したモチーフを榎本は「自分のなかにいる神様のような存在」として描いたが、同時に誰かにとっては別の何かに見えるかもしれない。もしかすると恐ろしい何か、悲しい何かを想起させるかもしれない。榎本は、ともすれば個人的なエピソードにとどまってしまう日常の断片を、誰もがイマジネーションを喚起される空想的な絵画世界に昇華することで、見る者に多様なインスピレーションを与える装置に変えてしまう。

もしかしたら彼女は、かつてシュルレアリストたちがコンセプチュアルアートとして目指した地平に、まったく異なる道のりを歩いて辿り着いてしまったのかもしれない。

(現代美術史家) 沓名美和

Message from WATOWA GALLERY

“ジャパン・シュールレアリズム”の最前線

榎本マリコは現代の日本において、シュールレアリズムとフェミニズムの感覚を同時にまとう稀有な

アーティストだ。榎本の作品からは西洋宗教(絶対神&ファンタジー )と日本宗教(八百万の神&アニミズ

ム)の両方の要素を感じる。

私が立ち上げたWATOWA GALLERYは“この世代から始まるカルチャー”をスローガンに、さまざまなアートプロジェクトを仕掛けたり、若手アーティストのサポートやプロデュースをしている。我々の世代で生まれている作品は、すべてが歴史とも世界とも繋がっており、日本独自に成長したものである。そこには文脈のないものなんてない。 “SUPER TRAD”なる日本の伝統ストリートをリバイバルするムーブメントや、GUTAIやもの派のような日本独自のミニマル・コンセプチュアルの現在、戦後におけるファッション&グラフィックアウトサイダーと欧米との繋がりなど、今の世代を30年ぐらいの時間軸で見たときに生み出せる仮説によってプロジェクトをつくっている。その中のひとつが“ジャパン・シュールレアリズム”だ。

パリで起こったダダイズムに対して、ニューヨーク・ダダ、ベルリン・ダダ、チューリッヒ・ダダ、ケルン・ダダがあるように、シュールレアリズムにも地域ごとの特徴がある。日本におけるシュールレアリズムは、もちろんマグリットやダリなどから影響を受けているが、そもそもシュールレアリズム的な空想や夢の世界の要素は、普遍的な発想として人間が常に持ち合わせているものである。特に日本の絵画においては、神道や妖怪、アニメーションなどの土壌があって長らく育まれていた。それは、シュールレアリズムが生まれる前も後も、ずっと日本に潜在していたといえるのではないか。

そして、榎本はファッションを学ぶことで得た自由な感覚で、日常の中で生まれる不安定な妄想から取り出した花や動物、風景などを、スタイリングするかのように組み合わせていく。そこには現代の日本で生まれ育った、女性ならではのメランコリーを感じずにいられない。つまり、榎本はフェミニズム的な視点を備えることで、長い時を経て育まれてきたジャパン・シュールレアリズムの最前線に位置するひとりになった。

そしてもうひとつの文脈は、ファッションも歴史であり、アカデミックであり、文化のど真ん中にあるということである。アート史を勉強しなかった者をアウトサイダーという定義があるが、ファッションは文化人類学や社会学の領域にも含まれるものなので、そこから影響を受けた者は、まさに時代の流れを受けて作品を生み出すれっきとしたアーティストということだ。

時代の憂鬱さや希望すらも感じさせる榎本マリコの作品は、今や文筆家や編集者たちを魅了している。文学作品を強く印象づけるための装幀画のオファーが絶えないのだ。それは時代を捉えていながら、言葉だけでは到底たどり着けない情報を、彼女の作品が秘められているからだろう。そんな榎本が日本の画家として世界にどう影響を与えるのか、共に見てゆきたい。

WATOWA GALLERY 小松隆宏

Enomoto Mariko Profile

1982年生まれ、東京都在住。日本画家であった曽祖父の影響もあり、幼い頃から自然と絵のある環境で育つ。ファッションを学んだのち独学で絵を描き始める。書籍の装画や映画、演劇のビジュアル制作等手がける。近年ではイラストレーションの領域を越え、油彩で描かれたポートレート作品を中心に作品を発表している。

2019 個展 “Flowery Ghost” (AL : 東京)、個展 “真夜中に虹を見た” (梅田蔦屋書店 : 大阪)

2021 個展 ”モーメント” (OIL by 美術手帖 : 東京)、個展 “もりのなか” (WATOWA gallery : 東京)

2022 個展 “わたしの庭” (日本橋三越美術サロン : 東京)

2023 グループ展 “Depth of Dreams – 夢・時間・記憶” (WATOWA gallery / THE BOXTOKYO)、グループ展 “完璧な経験 / 想像の夢想 – 3人のアーティストによる視点 ”(MJK Gallery)

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